郷土食・「小鮒の甘露煮」を追って。〜信州・佐久。
- 2015/09/17
- 19:43

信州・佐久(さく)地域には稲刈りが始まる直前のこの季節、どの家庭でも食べられる料理のひとつに小鮒の甘露煮があります。
私の育った小諸市(佐久市のお隣)でも鯉屋さんがあって、鯉の甘煮や、鯉こくなどを食べる習慣はありますが、
小鮒については佐久のどんな地域でどんな風に生育されているのかは知りませんでした。
最近では東信エリアに幅広く展開するスーパーマーケットでも限定的に小鮒を売る日が決まっているということを知り、
なんとかして小鮒にお目にかかりたい!なんなら鮒を煮てみたい!という気持ちの高まりから、地元に帰省のついでに鮒を訪ねる旅に出てきました。
北陸新幹線の佐久平駅から車に乗ってたどり着いたのは、佐久市三塚のJA佐久浅間、南部営農センター。
ここでは農家さんから仕入れた小鮒を活きたままに直売をしています。

9月12日には盛大な「フナ祭り」が開催され、当日には300人ものお客さんが押し寄せ小鮒を買い求めたとのことです。
センターの軒先にはいけすが用意されていて、4cmほどの小鮒と、7cmくらいの大鮒がそれぞれゆうゆうと泳いでいます。
小鮒は1㎏あたりのお値段が1,950円。大鮒より200円ほど高いのがポイントで、
育ちすぎると骨が硬くなるので丸ごと食べる甘露煮には小鮒のほうが向いているのだそうです。
もちろん大鮒も唐揚げなどにすると美味しく頂けるそうで、センターの入り口には美味しそうな調理後の写真が貼られておりました。
営農センターのセンター長・小林さんにお話を伺うと、
古くは戦国時代の終わり頃には、水田で鯉を育てる風習があった佐久地域(主に中込村や野沢村、桜井村など)ですが、鯉ほどに手間がかからないことを理由に50年ほど前から鮒の養殖も盛んに行われるようになりました。
田植え時に水田に放たれた小鮒は稲刈り期の水抜きとともに、自前のいけすに移され泥を抜きます。稲刈り前のこの時期がまさに水揚げ最盛期。
季節の食材に地域は活気づきます。 こうして小鮒は佐久地域の季節の味になっていたのですね。
鮒の生育にはたくさんのきれいな水が必要とする為、佐久地域でも鮒や鯉の養殖農家は限られたエリアに集約されているようです。
千曲川からひいた野沢用水が各支流に別れて田んぼを潤し、鮒のいけすにはまんまんと水が満ちていました。

つづいて訪れたのは営農センターからほど近い佐久市桜井北桜井集落。初めて訪れた集落ですがまるで地名に呼ばれてきたような初めての気がしない親近感。
このエリアこそ水路と鮒&鯉が息づく集落なのです。
どのお宅も自前のいけすを備えていて、集落を流れる用水路から自宅のいけすに大量の水が注ぎ込み、排水できる仕組みになっています。

東京で失われた川(暗渠)を探す際に、養魚場がある場所は「暗渠サイン」であると言われますが、
ここは集落全体が養魚場の設備になっていて、川と魚とともに人々の暮らしがあり、それが今なお続いていることを実感しました。
きっと都会でも地上に川が流れていた頃はこうした景色があったのでしょうね。
この日も大きないけすには鯉や鮒がゆうゆうと泳いでいました。
お願いした養鯉農家さんに、お宅のいけすからまるまると太った大きな鯉を一匹をタモで、手ぬぐいのほっかむりがばっちり似合った奥様がぴちぴちの小鮒を2㎏掬い上げてくれました。


養鯉農家のご主人には鯉の鱗をとって切り身にする様を近くで見せてもらいました。苦玉(胆嚢)を破らずにうまく取り出すのに技術が必要でなんだそう。
苦玉を破ってしまうと苦みが鯉全体に広がってしまうのだそうです。
見事な手際であっという間に鯉のぶつ切りが出来上がりました。ご主人のお見事なお手前、とくと拝見いたしました。

営農センターで購入した小鮒とあわせて合計3㎏の鮒と1匹の鯉を実家の台所に持ち帰り、大きな鍋で甘露煮づくりをしました。
まずは袋から取り出した鮒たちを水洗いします。
調味料(醤油、砂糖、酒、みりん)を煮立たせた大鍋に、3㎏の小鮒たちを活きたまま(!)投入!
ここが鮒の甘露煮の醍醐味で、先ほどまで袋で元気に泳いでいた彼らとそれを愛でていた私のかわいい蜜月関係はどこへやら。
当然、熱い鍋に放り込まれる訳ですから、びちびちと外に出んとする様は阿鼻叫喚の地獄画図。

飛び散るあまじょっぱい調味料が衣服やめがねに飛び散ったりして、なかなかの惨劇が繰り広げられたのでした。
まさに田舎料理ならではのダイナミックさ。
季節のイベントとしてはここがクライマックスなのでしょうね。
飴色になるまで煮たら甘露煮の完成です。とっても風味がよく、わずかな苦みも手伝って秋の訪れを感じる味に仕上がりました。

ごはんのお供にもお酒のつまみにも合いそうです。
鯉も砂糖とお醤油で煮詰めます。鯉はぶつ切りになっているので飛び跳ねたりしません。上品に煮上がった様はまさにごちそう。
鍋底に敷いた玉ねぎに味が移ってとっても美味です。
こちらはお正月や、人の集まる際にごちそうとして振る舞われることが多いお料理のひとつです。

営農センターの小林さんによると、この季節になると、嫁ぎ先の県外からも鮒を求めて買いにやってくる人も多いそうです。
舌はふるさとを思い出すのだなあ、と、私も実家で食べた郷土料理をふと思い出したりしたのでした。
実家からほど近い佐久にも知らない風習や暮らしがあって、そんな一端に触れることが出来た貴重な旅でした。
またほかの町の郷土食にも触れてみたいなあ。
ちなみに桜井地域には桜井氏という豪族(滋野氏)がいて、木曾冠者・源義仲が旗揚げした際には信州の各地域の豪族(小室氏や諏訪氏、望月氏ら)とともに出陣したという記録が残っているそうです。
その名も桜井太郎行晴。

私の姓といっしょなので何ともなしに親近感が湧きます。
ご先祖でも何でもないのですが、信濃の豪族たちが義仲とともに北国を攻め上ってゆくさまには、一介の地方武士が義仲に託した夢みたいなものを感じずにはいられません。
桜井氏がどう活躍したのか今度調べてみたいなあ、なんて思っております。
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